鯨を飲む

くうねるところ のむところ

夏とかもめ

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バタバタとひとつ慌ただしいものが終わったと思うと、気づけば朝から蝉がけたたましく鳴いており、すっかり8月に入っていた。

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奇しくも去年と同じような時期に、再び私は京都にいた。去年ほど楽しい用事ではなかったけれど。途方もなく暑い坂道を登ったり、入ったカフェのふわふわと甘いフレンチトーストに惨敗しかけたり(この世に珈琲があって本当によかった)、カフェで手に取ったリチャード・バックボーンの「かもめのジョナサン」の表紙と店内の壁に描かれた鳥の絵が偶然にもお揃いで思わず嬉しくなったり、帰りに七条でうつくしい羊羹を買ったりした。

流行病のせいか、平日だからなのか、京都はどこも閑散としていて歩き易い。すれ違うのはほぼ皆、この地域の住民のようだった。夏の京都は頗る暑くて、ハンディファンは大活躍を遂げていた。これさえあれば茹だった道も歩いてゆける。

羊羹を買ったお店はひっそりと静かで、田舎の家のような安心感があった。羊羹をひとつ買って店を後にする。すこし坂を下ったのち、ふと急に祖母に食べさせてやりたくなった。そのまま坂を上がり、やっぱりもうひとつ下さいと羊羹を頼む。久々に自分の中に愛のようなものの存在を感じていた。じりじりと焼ける鴨川に人気はない。橋の上からしばらくその様を眺めていた。夏の京都は酷く暑い。

 

今年はじめての夏服をようやく買った。服を買うと次はごつめのサンダルが欲しくなるし、ちいさいながらも必要なものは入るバッグが欲しくなるし、夏服にふさわしいピアスが欲しくなって困る。何かひとつを手に入れると次々に欲が湧く。

来年から新しい環境が始まろうとしている。思えば、自分が機嫌よく暮らすための手立てを探していた数ヶ月だった。来年の夏も私は京都に居るだろうか。暑いのは嫌いな癖して、なんとなくそうだといいなということを思う。

その前にいい加減、論文を書き進めないといけないのだけれども。

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島の様子。かわらずに田舎。