鯨を飲む

くうねるところ のむところ

映画館とサワークリーム味

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改めて思うけれど、今年の冬は暑すぎる。夜は冷えるからつい忘れがちだけれど、出かけるたびに痛感して、後悔する。ああ今日もコートを間違えた。一体あと何度繰り返すのだろう。戒めのためにも、今度こそしっかりとブログに書いておく。そうでもしないと多分私は永遠に暑さに苦しみ続けることになるだろうし。

学生生活が長いこともあって平日の街に慣れてしまったなと思いながら、駅から伸びる道を歩く。平日の街は歩きやすくてすきだ。呼吸もし易い(圧迫的ではないし、すぐ前を知らない人が歩いていたりもしないから)。平日の昼頃の、駅や、モールや、映画館や、本屋や、青果店や。そうしたものたちのことを本当にすっかりと、あいしてしまっている。

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映画館へ向かう途中、頭上に伸びていた飛行機雲。定規を使ったのかと思うほどに綺麗で、しばらくの間、口を開けてぼうと見上げていた。

『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』を観た。予告を観てからずっと気になっていた作品だった。その割りに随分ギリギリになってしまったけれど。ローカルな映画館特有の、独特なしょうもなさのあるCMが流れるのを観ながら、本当にしょうもないのになぜだか嫌いじゃないんだよな、といつも考えている。平日の、しかも昼前の映画館には恐ろしくひとがおらず、なのでポップコーンを買うことにした。ポップコーンといえば塩あるいはキャラメルというイメージがある。だからいきなり「サワークリーム」なんて変わり種を混ぜられると、つい狼狽えてしまった。えっ。サワークリーム?それは一体どういう……?不意打ちに弱すぎて、そもそもサワークリームの味すらまともに思い出せないくせに、狼狽えながらサワークリーム味を頼んでしまう。ジンジャーエールを受け取っている最中も、やはりサワークリームの味も見た目もなにもかも、全然思い出せずにいた。

映画は上質なミステリだった。密室だし、苦悩があり、挫折があり、欺瞞があり、傲慢が巣食っている。様々な要素が付随されていて、見応えあるエンターテインメントだなと嬉しくなる。あらすじなどはHPにあるのでわざわざ書かないけれど、洋画によくある「日本製品が最強がち」なシーンが出てきたときはとてもはしゃいでしまい、無茶苦茶なドライブテクや、「多言語」の強さなど、要所要所にアツい展開があって、ポップコーンを買ってますます正解だったなと思っていた。サワークリーム味は程よく癖があって、ずっとずっとおいしかった。確かにサワークリームはこういう味だった。

 

上映後、てくてくと地下街を歩く。ペンギンのような家庭用ロボットが売られていて、おっかなびっくりしていると店のひとが触らせてくれた。硬くはなくて、人肌ほどのあたたかさがある。顔を認識して、後をついて回るし、愛着や嫉妬も備わっているらしい。夜には寝かしつけもいらない。そんな時代になったのかと感心してしまった。何なら動きや見た目はかなりかわいい。すごい世界で生きているのだなあとしみじみしながら帰路につく。お土産に、デパートでちいさな羊羹を買った。家に帰り、デカンタに残ったままの珈琲を飲む。PCを立ち上がると更新が始まったので、待ち時間にこれを書いている。窓の外を見遣ると、陽射しはもう春そのものになりつつあった。