鯨を飲む

くうねるところ のむところ

本と珈琲のにおい

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またひとつ、やりたいことリストを消化した。どこかしこも見渡す限り本しかなく、あまりに果てが見えないからひっきりなしにワクワクする。大雨の翌日だったので足元はぬかるんでいたし、晒された首がじんじんと暑かったけれどそんなことがどうでもよくなるくらいには気持ちがふわふわと軽やかだった。

 

美術書の棚を見ているとき、隣にいたひとに声をかけられた。何でも日本画を書いているらしく、色々と話をしてくれた。ちょうど私が日本画の画集を漁っていたからだろう。色々な話をする中でふと、「貴女は絵ではなく小説を書く人間でしょう」と言われた。曰く私にはそういう気配があったらしい。スピリチュアルなことは専門外なのでさておいても、なんだか不思議で面白かった。一体私のどこを見てそう感じ取ったのだろう。わからない。単純に私に絵の気配がなかっただけかもしれないけれど。

スペイン絵画やガラス工芸品、モネやフェルメールなど様々な本があったけれど、上村松篁の花鳥画の図版を買うことにした。繊細でやわらかくて ひと目見ただけで自分にとって好ましいものだということがわかった。昔から甲信越のあたりと馴染みが深く、そちらでよく鳥の絵を見ていたからなのかも。すんと全身に染み入るようだった。

こういう機会がなければメインではないにせよ今、自分が本当はなにに興味を抱いているのかだとか 気楽に構えたとき、どういうものに惹かれるかというのは なかなかわかりにくかったりもするから これからも適度にこうした場を設けていきたい。

 

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世界一おいしいドーナツと珈琲。去年あたりからようやく飲めるようになった珈琲だけれど、特にここのものと東京のマメヒコのものがすき。深くて香りがうんといい。深緑のタイルとライトのとろとろしたオレンジをまだ眺めたままでいたかったけれど、店内が混み始めてきたので退席しようとして、けれどなんだか名残惜しくて、次またいつ来られるかわからないから豆を挽いてもらって持ち帰った。100gしかないから大切に飲むんだ。お砂糖もミルクもなにも要らない。

 

帰り道、水かさが増えてごうごうと音をさせて暴れる鴨川を見ながら歩く。ちいさく腕を振るたびに右手から珈琲の香りがするのがうれしかった。すべてを終えてしまってからも、まだ楽しいことが続いているみたい。ふわりと右手が香るたび、私の心は弾み続ける。

歳を重ねると、こういうちいさなご機嫌のとり方がどんどん上手くなっていくものなのだなぁ。