鯨を飲む

くうねるところ のむところ

髪を染めたから次は歯を抜く

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土曜日に髪色を暗くした。暗い色が本当に似合わないけれど、カットのおかげで思っていたよりはずっとよい気がする。何軒もの美容室を渡り歩いたのち、今ではすっかり行きつけの美容室に辿り着いた。美容室にはいつも一冊の文庫本を持って行くので、たいてい私への挨拶は「今日のはどんな話ですか?」か「最近映画観ました?」かの2パターンだ。この日は向田邦子の『隣の女』。私と話すのを待ち侘びているらしいスタッフさんや、担当の美容師さんとの話は本当に楽しい。いつもよそ行き特有の、すこしハイな気分で話をしている。帰り際、担当のお姉さんが「来週から指名料が値上がるんです、すみません……」と私に言った。それはもしや素晴らしくおめでたいことなのでは?と思って尋ねると、すこし照れくさそうに笑っていた。自分の気に入りのひとが、真っ当に評価されるのはとても嬉しい。拍手でもしそうな勢いの私に、やっぱりお姉さんは笑ってくれていた。短くなった前髪を気にしながら、街を歩く。その日は雨が降っていた。しっとりと濡れたアスファルトの上を、レインブーツを履いた脚が堂々と歩いてゆく。

 

明日は最後の親知らずを抜くことになっている。今から怯えている。できることなら抜きたくないのだけれど、前に歯医者で「今抜くことによるデメリットとメリットについて詳しく教えてください」と聞いた際に教えてもらったことを振り返ってみると、やっぱり諦めるしかないのだという気になる。25歳までなら比較的まだ抜き易いというのなら、今が適齢期だとも思う。今は毎日仕事があるわけでもないし。ほとんどの自由がある。来年でもいいけれど、来年の今頃の私には痛い思いをすることなく、悠々自適でいてほしいし、なんなら旅行もして欲しいし。となるとやっぱり今しかないわけで。

今日はよく煮込んだ牛肉をたくさん食べたし、おやつにピノを分け合って食べた。床暖房のはいった床の上で、足を立てずに置いたサイドテーブル(つまりほぼただの板)にピノの箱を置いていると、最後の2つくらいはちょうどよい具合に溶けてやわらかくなっていた。抜歯後は噛むことがしばらくできないし、食欲もないし、口もうまく開かないし。今の間においしいものを食べていたい。明日はややハードスケジュール。すごく疲れたあとに歯を抜くのだから、もう絶対ヘトヘトになってしまう。明日の用意をして今日はよく眠ることにする。おやすみなさい。夜、眠る前に枕元にひとふりする香水のにおいを、私は本当にあいしている。