鯨を飲む

くうねるところ のむところ

宝石の断層と詩集

6月の終わりに書き足した「やりたいことリスト」のひとつにHARBSのミルクレープを食べるというものがあった。ので、それに従ってみることにした。喜び勇んで店内に入ったら、昨日から何度も舌に馴染ませておいた「ミルクレープ」の一言を伝える。夕方には病院へ行かなくてはならないから、片道40分以上の電車の中で退屈しないために持ってきていた詩集を開きながら待つことにした。

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ところで、あの、大きすぎる。えっ!

このときばかりは、このところずっと飼っている酷い頭痛のことさえ忘れてしまった。おっかなびっくりして店員さんの顔を見あげたらニコリとされる。しばらく見詰めていたら大きさに慣れてきた。この世にこんなにもうつくしい断層があったなんてなということを思いながらナイフを入れたら赤肉のメロンから下がずるりと崩れて大変だった。バナナが受け止めてくれたのでよかった。おいしい上に頼もしいやつめ。

ちょっとだけ胸焼けしてしまったものの、初めてのHARBSはとてもよかった。すこし足を伸ばせばすぐに来られるのにどうして今まで一度も来たことがなかったのか不思議なくらい。少し前までの私たちはパンケーキに夢中だったからかもしれないし、いつしかお酒ばかり呑むようになってしまったからかもしれないし、まぁ単に縁がなかったというだけのことだろう。私はなんにでもすぐに理由とかそういうのを求めがちだけれど、本当はものごとの大半に理由なんてものはないのだと思う。大袈裟に生きるなんてことを私はもうしなくていい。自分の魂や肉体のことで打ちのめされては深いところまで沈んでしまうけれど、浮かび上がってくるまでの時間は確実にだんだん短くなっているのを実感できている。そのことは安堵するべきだし誇るべきだと思っている。周りの人間やタイミングに恵まれている私は、基本的にラッキーな奴なのだ。いつだって。

 

一番隅の席でひとり、いかに断層のうつくしさを保てるかで闘っていた私が、合間合間に読んでいた詩集について。

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「愛してると言われる、愛してると言う、そのとき、必要な覚悟は、たった一人で生き続けるという覚悟だった。」 

天国と、とてつもない暇 / 最果タヒ  「星」より

 

声に出して読むときの舌触りのよさも、私のやわくてしんとした部分にぴったりと重なるところも、時おり瞳の裏側に重たい水が溜まってゆくのが感じられるところも、そうしたすべてをすきだと感じたとき、私は私の魂の存在を感じる。私は自分がひとりで立てるときにしか誰かを愛さないと決めていて、これは決して意地というわけではなく、人生においての誓いのようなもの。

 

あまりにも日々が暑いものだから、これには支えが必要だわと思って服を買った。素材が綿だから肌触りも風通しもよくて、これを着て海辺へ行けたらきっと素敵。うん、とっても素敵。短く切った髪によく似合う。