鯨を飲む

くうねるところ のむところ

夏の支度

気持ちよく夏を迎えるために髪を切った。それも美容師さんに完全お任せで。私は髪を切るのがすきだ。しかも毎回、結構な長さを切る。同じ値段なら多く切る方が良いように思うというセコい思考があることも事実だし、単純に髪を伸ばす気概がないのも事実だし、何より私はとにもかくにもワクワクしたいのだと思う。私では到底完成系がイメージできないようなオーダーをするのがすきだし(奇抜という意味ではなくて)、それゆえ私はよく髪型が変わる。ようは気まぐれだという話だ。お酒と同じくらいショートヘアの女性がすきというのもある。これは単に性癖の話だけれど。

美容室へ行くときは毎回必ず本を持って行く。2時間半ほどの時間を座って過ごせられるのだから、これほどまでに読書に適した時間はないと思う。もっとも私は酷くお喋りな人間だから、今日みたいにほとんど会話で時間が終わるなんてことはよくあるのだけれど。今日は700ページくらいのミステリを読むつもりだったけれど、結局まだ誰ひとりとして殺されていないところに栞を挟むはめになった。

仕上がった髪は軽くて夏らしくてとても素敵だった。ピアスをつけてもよく見える長さだし、上機嫌でまちを闊歩した。陽に差されてもこれなら大丈夫そう。

 

そのあとはちいさな映画館へ向かった。本当にちいさな映画館で、シアターも狭いし画面もちいさい、音だって多分TOHOとかに劣ると思う。だけれどぱっと映画を観られる手頃さと、料金の安さから最近は特に通いがち。だって私だと平日なら1000円ぴったりで映画が観れてしまうのだ。たとえ話題作しか上映しないとは言え、つい足を伸ばしてしまう。地元民しか来ないようなそこを私は多分とても気に入っている。願わくばこれから10年もまた健在であって欲しいと祈りながら、今日もジンジャエールを買った。

『天気の子』を観た。少年と少女の物語だった。まっすぐで、まっすぐすぎるほどにまっすぐだったから、曲がることや避けることを知っている私たちからすればどうにもこそばゆくて痛々しくて、だからこそ可愛らしくもあった。あらゆるものにとても必死な映画だった。きっとこれは誰かのための作品になるのだろう。私はちょっと、そこからははみ出してしまっていたみたいだけれど。

降り注ぐ雨、水溜まり、跳ねる雨粒、覆い被さる鼠色の雲、射し込む光、照らされるアスファルト、水溜まりに反射する揺らいだ煌めき、聳え立つビルのガラスと、とっぷりと濡れた草花、ネオンの光と夜の街。彩度の高い背景を眺めながら、自分の腕で包めるほどの範囲を世界と呼ぶのだろうなと思っていた。

 

映画館を出れば空はよく晴れていた。うすい雲が流れる速度はゆっくりで、ビルとビルの間からは青がよく見えた。

 

 

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飲んだもの。この夏、たまに飲んだりしている。見た目がビールっぽくもあってちょっとだけ気分が上がるのが良い。よく屋上から夕焼けを眺めながら飲んでいる。

 

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最近どうやら缶の飲みものがすきらしい。暑さで汗をかいているところだとか、ひんやりしているところだとか 無機質なところだとかきっとそういうのが好みなのだろう。

 

梅雨があけたらしい。

きっと天気の子を観るのに絶好の日だったに違いない。髪が素敵になったことより、映画がよかったことより、こうしたちっぽけな偶然ひとつでその日のことを「いいな」と思えてしまうのだから、私はとても安上がりな女なのだと思う。