鯨を飲む

くうねるところ のむところ

カラメルソースと謎の肉

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昨日は午後からよく晴れた1日だった。待ち合わせていた友人たちの到着が大幅に遅れていた。よくあることだし、ひとりで時間を使うことはなにも苦ではないので、勝手にそこらを歩き回ることにする。知らない土地だったけれどそばには随分と長い商店街が構えていた。好き勝手気ままに歩くにはうってつけだ。茶道具の専門店や、地酒の揃った酒屋、偶然見かけたいかにもちいさな書店。入ってみると奥に長い造りになっていて、いきものの巣みたい。ラインナップが充実しているどころか、私好みの本を多く扱っているようで驚いた。前々から欲しいとは思っていて、けれど近所では見かけなかった雑誌が置かれていることに気づく。迷わずにレジへ向かった。店員さんは愛想がなく、黙々としている。陽の光がしずかに射し込む商店街は、輪郭がぼんやりとしていた。こう言ってはなんだけれど、友人たちが遅刻してくれてラッキーだったかもしれない。

 

友人を乗せたタクシーがもうすぐ着くらしいので、一足先にカフェへと向かう。予定では私は来ることになってはいなくて、けれど色々あって一緒にランチをすることになった。昼どきの店内は賑わっていて、めかしこんだ女性たちが笑い合っている。通されたのは深い緑のソファ席だった。深く腰を下ろして買ったばかりの雑誌を開いて、読みたかった和菓子の特集を読む。しばらくすると友人がやってきた。バスローブみたいなコートだなと思っていると、本人から「これ、私が着るとバスローブみたいになるんよ」と言われる。そう言いながら気に入っているんだろうなと思った。ナポリタンに目玉焼きをつけて、それからプリンを頼む。いかにもな組み合わせ。ナポリタンはうどんみたいな太麺で、なぞの肉が入っていた。ハムにしてはやわらかすぎるそれは、得体が知れないくせしておいしい。

実のところ、カラメルソースはそこまですきじゃあない。それどころか好みのプリンといえばミルクプリンだ。

プリンが運ばれてきた。

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玉座だ。カラメルソースはプリンにとっての威厳そのものなのだと思う。申し訳ないけれど、ミルクプリンじゃこうはならない。固めのプリンにはくっきりと苦いカラメルソースがよく似合う。ぷるぷる揺れるのを、恭しい手つきで食べていた。

 

夜、もうひとりと合流して自宅で水炊きをした。友人のうちのひとりがふと、私が野菜をよそうのを眺めながら、「昔泊まったときに、朝起きた私にうどんを作ってくれたよね。たまごも入れてくれてね、あれが本当においしかったんだぁ」と言った。そんなことを私はすっかり忘れていて、なんなら言われてもなお、記憶は朧気なままだ。それでもきっと私が忘れてしまったちいさなことを、彼女は大切にし続けていたのだろうなと思うとすこし堪らなくなった。ので、こっそりと鶏肉を多めによそってやる。

食後、テレビのバラエティかなにかでふとスパムの缶が映っていた。それを見ながら私たちは声を揃えて叫ぶ。ナポリタンに入っていた謎の肉の正体はどうやらこれらしいのだった。日常的に食べなさすぎて全然わからなかったや。スパム。