鯨を飲む

くうねるところ のむところ

すっぱさを取り込む

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トマトを丸々ひとつと、みじん切りにした新玉ねぎをオリーヴオイルと米酢、塩胡椒と僅かながらのきび糖とを軽く混ぜてマリネばかりをこさえている。薄くスライスしたトマトを食べるよりもなんとなくちゃんとしているような気がして、精神的にもやさしくて気に入っている。何よりおいしい。すっぱいものがかなり好きだ。キウイだとかはっさくだとか、グレープフルーツにいちごだとか。この頃も、暇さえあれば真っ二つに切ったキウイをスプーンですくうようにして食べている。わざわざ皮をむいたり、切り分けたりしなくてもおいしいキウイはスマートですきだ。杜撰で乱暴な私に相応しい食べもののことをこの上なく信用している。簡単なことしかしていないのにこんなにもおいしくなれるだなんて、トマトも玉ねぎも本当に立派だ。

 

夜、素晴らしいアイドルの引退ライブの映像がYouTubeに限定公開された。齧り付くように眺めては、ああ、本当にかっこいいと息を飲んだ。去っても尚、私たちの背を伸ばし、とんと押してくれる歌がある。果てのなさを感じながら、少しだけ息を吐き出す。

夏が終わるまで引き続き在宅での暮らしが続くことになった。どうしても家に篭っていると代謝が落ちてしまいがちで、例年以上に暑さが堪えそうなので、今から整えられるものは整えておこうと企んでいる。栄養とか、体力とか、機嫌とかそういったものたちを。酷い話かもしれないが実のところ、社会が不健康になったことに対してほんの少しの安堵がある。だからこの状態が続いて欲しいというわけではまったくない。ただ私のように息をすることが幾分か楽になっている人間もいるんじゃないだろうか。わからないけれど。けれどもそれがまったくの悪ではないということなら私にもわかる。