鯨を飲む

くうねるところ のむところ

身体の一部

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新年が明けていた。コロナウイルスの拡大により今年は親戚の家で過ごすということがなく、恐ろしく時間の進むのが遅い正月を過ごしていた。毎年、三が日は移動が多く気疲れしていたのでこれはこれで過ごし易くてよい。

2021年は新しいことをしていきたいと思っている。お金に糸目をつけず、適度な運動と楽しい食事と充分な睡眠を忘れずに過ごしたいとも。なので、手始めにネイルサロンへ行ってきた。ちょうど成人式を控えた女の子たちが何人かおり、そう言えばそういう時期でもあるらしかった。特に何か大きなイベントがあるわけでもなく、寧ろ変わらずにパソコンの前にばかりいる生活なのだけれど、ネイルをするなら今だと思った。店員のお姉さんが私のちいさな爪に丁寧にヤスリをかける様を見ながら、不思議な気持ちでいた。先っぽがとんがっている自分の爪を生まれて初めて見た。色を塗り、飾りを置き、熱を当てる。熱いですよと言われたけれど、熱いというよりは結構痛く、その割りに最初の方ではそれが痛みなのか何なのか突き止めきれないという謎の経験をした。痛い場合は指を離しても問題はなかったので一切苦しい思いをせずに済んだ。

仕上がった爪はまちがいなく私の爪だった。思っていたよりもずっと、それは私の爪だった。そして今まで生きてきた中で一番よく見えた。今もたいして好きではないのだけれど中高生の頃は本当に自分の爪がコンプレックスで大嫌いで、カーディガンの裾でいつも隠していたような子どもだった。そんなことなど日頃は忘れ去っていたはずなのに、ふと思い出す。長くて細い、素敵な爪に何度も憧れていた。あの頃の私は、自分の身体の中で何よりも一番爪が嫌いだったのだ。成長に伴う精神の成熟によって、今では昔ほど憎く思ってはいない。あっけらかんとしている。それでも、あの頃の私ごとまるまる愛せたようで嬉しかった。ぴかぴかして、つるつるして、きらきらして。幾度もInstagramで見ては素敵だと思ってきた爪たち。私の爪は相変わらずちいさくて、すらっとはしていないけれど。私の爪だって悪くない。似合っているよ。

店を出ると、いつもより空は暗かった。聞いてないぞと思いながら、無性に寒くて歯ががちがちと鳴っていた。本当はコートのポケットに手を突っ込んだり、あるいは鞄に仕舞ってある白い手袋をつけた方がよかったのだと思う。でも、そうはしなかった。寒いままの素手で街を歩き続ける。どんなに冷たくても、私の手のことが嬉しくて堪らなかったから。